2025年3月12日 // Lance D Johnson
画期的な研究により、長年アルツハイマー病の特異的マーカーとされてきたタンパク質が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の損傷した筋肉組織からも放出されていることが明らかになりました。この発見は『Nature Communications』に掲載され、アルツハイマー病検出用血液検査の特異性に疑問を投げかけるとともに、現在明確なバイオマーカーを欠くALSの新たな診断法開発につながる可能性を示しています。

アルツハイマーかALSか?診断のジレンマ
欧州の研究チームが主導した本研究では、ALS患者の血液と筋肉組織に「リン酸化タウタンパク質(p-tau 181とp-tau 217)」の高レベルを確認。これらは従来、アルツハイマー病の脳病変に由来すると考えられていましたが、ALS患者の筋線維変性部位からも検出されました。4つの欧州研究機関で収集した152名のALS患者、111名のアルツハイマー患者、99名の対照群の血液分析によると、両疾患群で対照群より有意に高いタウレベルが観察されました。特にALS患者では筋損傷マーカー(トロポニンT)と強く相関するp-tau 181の上昇が特徴的でした。
マーカスの見解
「これらの血液マーカーが脳のみに由来するという前提が覆されました」と、共同上席著者のマルクス・オットー教授(ハレ大学医療センター)は指摘。「ALSとアルツハイマー患者のバイオマーカー濃度が重複するため、p-tauのスクリーニング検査としての有用性に限界が生じます」
筋生検による実証
研究チームは免疫組織化学と質量分析を用いてALS患者の筋生検を検査。萎縮した筋線維に高濃度のp-tau 181と217を確認し、筋変性が血液中のタウ上昇に直接関与することを実証しました25。この発見は、激しい運動や他の神経筋疾患でもタウレベルが上昇し、アルツハイマー検査で偽陽性を引き起こす可能性を示唆しています。
アルツハイマー検査への影響
最近開発された血液バイオマーカー検査(特にp-tau 181/217)は、早期発見の有望ツールとされてきましたが、その疾病特異性に再考を迫る結果となりました。共同筆頭著者のサエド・アブールメイレ医師は「陽性結果が出た場合、神経心理検査や画像診断などの追加検査が必要」と述べ、解釈の注意を喚起しています。
ALS診断の新たな扉
現在ALSは臨床検査と筋電図(EMG)で診断されますが、決定的な血液マーカーは存在しません。今回の知見は、筋組織から放出されるリン酸化タウが、新たな診断ツールや治療効果モニタリング法開発に役立つ可能性を示しています。アブールメイレ医師は「一見アルツハイマー診断の後退に見えるこの発見が、ALS治療の理解を深める契機となるでしょう」と期待を表明しています。
今後の研究課題
・他の組織/疾患(特に神経筋疾患)がタウレベルに与える影響の解明
・タウ病理がアルツハイマーで発現するメカニズムの再検討
・より特異的な診断ツールの開発
この発見は、米国で承認されたアルツハイマー抗体療法の効果的な適用にも影響を及ぼす可能性があります。ALS研究においては、早期診断による臨床試験参加機会の拡大が治療開発を加速させる期待が持たれています。
科学的意義
脳と筋肉の相互作用は従来の想定より複雑であることが明らかになり、神経変性疾患の理解に新たな視点を提供しました。今後の学際的研究が、これらの疾患の根本原因解明とタウレベル変動のメカニズム解明に貢献することが期待されます。





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